信託とは何か

 信託とは、『ある目的』を達成するために作られた仕組みです。
 
 『ある目的』は、脱法目的以外は基本的にどんなものでもOKです。そのため、投資信託や年金信託など色んな目的で利用されています。同じ「信託」と名が付いても、証券会社で扱う投資信託と、親族の財産管理を目的とする家族信託(民事信託)では、全くの別物と考えないと理解がしづらくなります。基本的な仕組みは同じであっても、目的に応じて別物になるほど柔軟な使い方ができるものだとご理解ください。
 さて、その「仕組み」ですが、下の図をご覧ください。信託には、財産を拠出する人(委託者)がいて、財産を預かって管理する人(受託者)がいて、財産から利益を得る人(受益者)がいます。これが基本形です。図は、よく利用される「自益信託」を例にしていますので、「委託者」と「受益者」が同一となっています。
 
 自益信託・・委託者と受益者が一致する信託。税務の扱いは、受益権を持つ人が財産を持っているとみるので、課税は生じません。税制の解説は「信託の税制」をご参照ください。

(図:信託の基本的な仕組み)
信託の基本的な仕組み

 信託のそもそもの始まりは、イギリス封建時代(14世紀ごろ)にまで遡ります。当時の領民が、土地を所有することで受ける領主からの不合理な要求を回避するための方策として、自然発生的に生まれたものです。
 簡単に言ってしまえば、土地を持たなければ、土地を持つことによる要求はなくなるわけです。しかし、本当に土地を他人に譲ってしまっては、生活が成り立たなくなります。そこで、形式的に土地を第三者に譲渡しますが、引き続き土地の耕作は自分がし、そこからの利益は自らが指名する人にあげる仕組みを作ったのです。そんなことが出来るのか、とも思いますが、封建制が弱体化してきたことも背景にあったようです。
 土地の所有権は、形式的とはいえ、第三者に移るわけですから、第三者は信頼出来る人でないといけません。しかし、実際には信頼する第三者の裏切りにより、財産を失うケースも多くあり、裁判が起こされました。その蓄積によって、欧米の信託法が形作られてきました。日本では、その出来上がった仕組みを取り入れたため、つまり必然的に生まれたものではないため、馴染みが浅いのかもしれません。
 日本の信託法は大正の時代からあるのですが、平成18年に、より身近でより使いやすくするための大改正が行われました。

信託のもつ機能

 信託を特徴付ける機能がいくつかあります。その中の重要なものをご紹介します。

意思凍結機能

 自分の意思(遺志)を後世に残すには遺言を書くことが一般的ですが、二代先までの指定は効力がないとされます。これは後継ぎ遺贈といわれるものです。
 例えば、自分が亡くなれば長男に土地を相続させ、次に長男が亡くなれば次男の子(孫)にその土地を相続させること、といった遺言です。
 これに対し、信託の仕組みでは「受益者連続型信託」や「目的信託」といった方式により、意思(遺志)を契約の形で将来へ確実に伝えることが出来ます。この信託の機能を「意思凍結機能」といいます。
 受益者連続型信託は、第一次受益者、その次の第二次受益者、その次の第三次受益者と決めることができます。
 目的信託は、受益者の定めがない信託です。受益者を最初から特定せず、信託目的に合致した人を受益者とするものです。

倒産隔離機能

 これは信託財産が委託者の債権者や、受託者の債権者からの差押えの対象にならない、ということです。
 例えば、自宅を信託財産とすると、その名義は委託者から受託者に変わるため、委託者の債権者から差押えを受けることはありません。また、信託財産は受託者固有の財産とは分別管理され、受託者の債権者からも差押えを受けることはありません。
 このような倒産隔離機能を持つことで、委託者や受託者の状況に関わらず、信託目的が達成されます。ただし、会社の業績が悪く債務超過となっているような時に、自宅を守るために自宅を信託財産とするようなことは、詐害信託として取り消しの対象になります。
 なお、受益者が倒産などした場合は、受益権が差押えの対象になります。